2022年2月15日火曜日

コンビニ人間の裏切り…『地球星人』村田沙耶香

 

『地球星人』村田沙耶香(新潮文庫)

 序盤、暗く陰惨な少女時代の描写に気が重くなり、一時中断していたが再開して無事読了。

 自分のことを魔法少女だと思っている主人公は、家族からも周りの大人からも精神的に肉体的に虐待を受けている。魔法少女である自分の正体を明かし、心を開くことのできる相手は、年に一度お盆に会ういとこだけで、彼は自分のことを宇宙人だと思っている。二人は結婚することを誓い合い、この世界で「いきのびる」ことをお互い約束する。

 子ども時代のある決定的な事件が起こった後、妙齢になった主人公へと物語はうつる。特殊な取り決めを交わした伴侶も得、一見人生は小康状態のようだが影はあちこちに漂っており、やがてどんどん暗く深くなってゆく。

 全体的にどこか幻想的で妄想めいた語り方がされており、メタフィクションとはちょっと具合の違う、作りものを意識した筆致である。主人公の感覚としては「幽体離脱」と描写されている。書くのにかなり技術を要する描写だと思うが、文章は非常に明解で読みやすく、透明である。主人公は目の前の現実を舞台を見るように、ドラマを見るように見ており、その様子を語っている。時には笑え、時には胸がキュンとするような美しいシーンもあるが、基本的には陰惨である。舞台を見る彼女の座る客席は暗く、見上げると真っ暗な宇宙につながっている。

 終盤、主人公が席から立ち上がり、舞台に上がると物語はメチャクチャになる。少女の頃、この星で唯一幸せだった祖父母の家で彼女、彼らは自らが宇宙人であることに覚醒し、宇宙人として生きるようになる。むごたらしく、血まみれで常軌を逸しているその営みと行為が、作りものめいた描写で透明に平静に描かれてゆく。

 しかし、この星で「いきのびる」ために彼女、彼らはこうするしかなかったのだろうか。他に方法はなかったのか?

 作者は芥川賞の授賞式で「これからは人類を裏切るかもしれない」というような発言をしたという。『しろいろの街の、その骨の体温の』ファンの自分としては、こんなメチャクチャな結末を書いてこのあとどーするの?という疑問を感じた。これは村田沙耶香ワールドの終末の物語なのか。それともまだ続きはあるのだろうか。

 作者の「裏切り」が胸に残る。